甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
ぎゅっと抱き込まれ、郁さんの硬い胸に私の肌が密着する。

伝わる高めの体温に、鼓動がどんどん速くなる。

そのまま顎を掬われて、真上から唇が塞がれた。


「んっ……」


「可愛いな」


至近距離から妖艶な眼差しを向けられ、体が甘く疼く。

昨日散々触れられた記憶がよみがえり、羞恥がこみ上げる。


「可愛く、ありません」


なけなしの反論は再び彼の唇で塞がれる。

コツン、と彼の額が私の額に合わさった。


「……体、つらくないか?」


「え……?」


「昨夜、疲れていたはずなのに遅くまで無理をさせたから。我慢ができずに悪かった」


彼の言葉に、どろどろに甘やかされ、明け方近くまで解放されなかった記憶が鮮明によみがえり、体が火照りだす。


「だ、大丈夫、ありがとう」


誤魔化すように早口で返答する。


「今日は無理をするな」


そっと顔を離した彼が額に優しく口づける。

押し当てられた唇の柔らかな感触に胸が詰まった。

寝起きなのに、完璧に整った面差しに見惚れてしまう。

私の寝顔の記憶を、お願いだから消去してほしい。

鏡を見なくとも、今の私が散々な様相であるのは容易に想像できる。


「このまま一日ずっとベッドの上で沙也を抱いていたいが……仕事だな」


ベッドサイドに置かれた液晶時計を見て、郁さんが残念そうにつぶやく。

つられて時計に視線を向けた私は血の気が引く。

普段の起床時刻よりずいぶん遅い。
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