甘やかし婚   ~失恋当日、極上御曹司に求愛されました~
「遅刻……っ」


「大丈夫だ。沙也の以前の自宅よりもここは会社に近い。車で送る」


「いえ、あの、私は電車で……」


「これからは俺と一緒に出勤すればいい。時間も同じくらいだろ」


「一緒にって……郁さんは関さんが迎えに来られるでしょ?」


シーツを体に巻き付けながら尋ねると、郁さんもベッドから起き上がる。


「ああ、沙也も乗車すればいい」


「ダメよ。私は響谷の社員でもないし、通勤手当もいただいているんだから」


「……普通そこは、夫と一緒に通勤できて嬉しいって喜ぶだろう」


「でも、事実よ。それに郁さんが遠回りになるわ」


妻とはいえ、他社の社員を毎朝送り届けるなんてありえない。


「……本当に興味深い意見だな。沙也を知らなかったら打算があるのか、物分かりの良さをアピールするつもりかと疑うところだが」


なぜか眉尻を下げた郁さんが、楽しそうに口にする。

わかりにくい説明に首を傾げると、気にするなと頭を軽く撫でられた。


「じゃあ……私は電車の時間があるから支度をして先に出るね」


そう言って、立ち上がりドアに向かおうとすると、足がふらつき、ベッドから降りた郁さんに体を支えられた。


「お前の言い分は理解できるが、沙也をねらう記者がどこにいるかわからない現状では電車通勤は認められない」


「でも……」


「お前を守りたい……そもそも俺のせいでこんな状態になっているからな」


甘い声に背中に痺れがはしる。
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