本気の恋を、教えてやるよ。



いつか転ぶぞー、なんて言いながら壱人の後ろを歩く。


駅に向かうにつれ、明るくなる街並みに、増えていく人。いつもより浮ついた空気に満ちていて……段々と足取りが重くなる。


あー……この中帰んの、しんどいな。


「楽斗?」


とうとう足取りが止まってしまった俺を、壱人が不思議そうに振り返る。


「……俺、ちょっと寄り道して帰るわ」

「おお?」


俺の言葉に、驚いたようにぱちぱちと瞬きした壱人は、じっと俺の顔を見たあとで、わかった、と頷いた。


「ちゃんと飯食えよ!」

「……分かったよ。じゃーな」

「また週明けな〜!」


お前は俺の母さんか、と言いたくなるような言葉に不覚にも笑わせられながら、大袈裟に手を振る壱人と別れて、眩しさから逃げるように横道に逸れる。


すると、途端静かになり、寂しさが漂ったが、今の俺には丁度良かった。




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