本気の恋を、教えてやるよ。
「アンタ、こんな所で何してんの……?」
「……」
「傘もささないで……風邪引くぞ」
取り敢えず立てよ、と腕を掴むと。
「やっ……」
バッ、と腕を振り払われて。
だけど。
差し伸べた手を拒絶されたとか、そんなことよりも強く俺の記憶に残ったのは、涙に濡れた稲葉の顔だった。
「は……?」
なんで、と思った時にはもう、その顔は再び稲葉の腕によって隠されていたけど。
意味分かんねぇ。
そんな可愛いカッコして、今日はアイツとデートだったんだろ?
なのに、なんで。
「なんで泣いてんだよ……!」
今度は振り払われないよう、強く腕を掴んでそのまま立たせた。
嫌、とか細い声を上げて顔を隠そうとした稲葉の両手首を掴んで自由を奪うと、稲葉は怯えたように俺を見る。──だけど、どこか縋るように。
「何泣いてんの?アイツになにかされたの?」
「違っ……!」