本気の恋を、教えてやるよ。



「違くないだろ!……嘘つくなよ。なんで、顔、隠そうとすんの」


逃がさない。

じっと見つめ続ければ、やがて稲葉は諦めたように力を抜き、


「……泣き顔、見られたくなかったから」


と小さな声で呟いた。


ほら。またそうやって、アンタは一人で抱え込もうとする。


一人で抱え込んで、大丈夫じゃないくせに大丈夫だなんて言って。──だから俺は、アンタを放っておけなくて。


弱いくせに強がるアンタを、守りたくなる。


「……泣きたい時は、泣けばいいだろ。俺、誰かに言ったりしないから」


掴んでいた稲葉の手首を放し、後頭部に手を回した。


そして、そのまま抱きしめる。


「こうすれば、誰にも見えない」


だから思う存分泣けよ。そう言うと、「うぁ……」と嗚咽が聞こえてきて。


「わっ……た、し……っ」

「うん」

「もう、必要、ないっ……て…」

「うん……」

「疲れた、って……、慶太に……っ…」



< 226 / 392 >

この作品をシェア

pagetop