本気の恋を、教えてやるよ。



あれから、慶太とはたまに一緒に帰ったり、休日に会ったり。


そんな友達以上恋人未満の関係を続けている私たち。


付き合おうと言われることも無ければ、付き合ってと言うことも無い。


……きっと慶太は、待ってる。

私から付き合って、と口にするのを待ってる。


慶太から言ってしまえば、私が断れないことを知っているから。──でも、それなら。


それを知っているのに。慶太の傍に居ることを決めたのに。


……どうして私は、「付き合おう」って言えないんだろう。


慶太が敢えて聞かないでいてくれるのをいいことに、この状態で満足してしまっている。──むしろ、この状態を壊したくない。


そんな風に、思ってしまっている自分がいる。


「稲葉さん」


給湯室でお茶を淹れながらボーっとしていると、不意に名前を呼ばれて驚く。


「は、はい!……あれ、佐川くん?」


返事をしながら振り向くと、こちらを覗くように立っていたのは佐川くんだった。



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