本気の恋を、教えてやるよ。



まるで二人だけの世界がそこにあるようで、それが酷くもどかしい。


──そして今日、そんな俺の気持ちはますます膨らむこととなった。


二人を見かけたのは、本当に偶然だった。


偶然人事部に用があり、提出書類を手に持ちながら階段を降りた先、稲葉と──その前を歩く筒井を見つけた。


二人はそのまま個室へと入っていき、違和感を覚える。


営業と経理。全く関わりがないとはいえないが、会議までするほどの内容なんてあるだろうか。


それに、遠くから見えた稲葉が少し怯えたようだったのが気になる。


俺はしばらくその場に立ち止まり、二人が消えた先を睨んでいたが当然声なんて聞こえるわけもない。


まさか乱入するわけにも行かず、ひとまず用事を済ませるか、と人事部へと足を向けた。


人事部のデスクへと向かい、誰に声をかけるかと窺っていると「駒澤?」と横から声をかけられる。



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