本気の恋を、教えてやるよ。
振り向くと立っていたのは妻夫木で、きょとんとした顔でこちらを見ていた。
「珍しいね、このフロアに居るの」
「あー、人事に出さなきゃいけないもんがあって」
妻夫木は稲葉とよく一緒にいるから覚えていたし、同期の女の中でも話しやすい部類だ。
素直に答えてファイルを見せると、ああ、と妻夫木は頷いた。
「いいよ、それ私が受け取る」
「ん。助かる」
妻夫木が自席に戻るのに着いていき、ファイルを渡すと、ふと、パソコンに目を落としながら妻夫木が口を開いた。
「……あのさー、駒澤」
「なに?」
「稲葉茉莉って、わかる?同期の」
突然の質問に、内心ドキッとする。
なぜそんなことを聞かれたのか分からず、一瞬答えに詰まってしまった。
「……分かるけど」
「そっか。別に、見てなかったらいいんだけどさ、ここに来る時すれ違ったりしなかった?」