本気の恋を、教えてやるよ。
すると、妻夫木の表情がパッと明るくなった。
「いいの!?」
「いいよ。見とくから、早く電話でな」
そろそろ保留切れそう、と指し示すと、ぱちぱちと点滅しているランプを見て妻夫木は慌てて受話器を取った。
それから、俺に片手で謝る仕草をしてくる。
俺もそれに片手を挙げることで応え、そしてあの、頬を腫らした稲葉を見つけたのだ。
稲葉を見つけた時、心を占めたのは筒井に対する怒りと、稲葉を守りたい、という衝動。
痛い思いも辛い感情もひた隠して、誰も悪人にしないように健気に笑う稲葉を、放っておけるわけが無かった。
……なあ、稲葉、俺じゃダメなのかよ。
俺ならきっと、筒井なんかよりも、アンタのこと幸せにしてやれるよ。
だから、俺にしとけよ。
けど、臆病な俺はどうしても最後の一歩が踏み出せず、肝心な言葉を飲み込んでしまう。
挙句、緊張のしすぎで仏頂面になるなんて。