愛しのフェイクディスタンス
まるで優奈が妙なことでも口走っているかのように、雅人は目を丸くして言った。
こんなにも早く離れたいと態度に表しているというのに、気がついていないのだろうか? それとも気がついていて敢えての態度なのだろうか。
雅人の相変わらずの優しさに正直、戸惑ってしまう。
(自分に好き好き言い続けてた女だって忘れてんのかな……)
可能性ならある。
多忙な人だ、数年前の出来事など優奈のつまらない毎日と比べたなら色あせる速度も早いのかもしれない。
「……一人で帰れます」
何にせよ、もうこれ以上関わっていたくない。優奈はその一心で雅人に背を向けた。
「優奈」
しかし。
突然、聞き慣れない低い声で名前を呼ばれたかと思えば、背後から肩に添えられた手。優しく柔く触れているようでいて、その実とても力強い。
優奈の耳元に熱い吐息を吹きかけながら、絞り出すような声で雅人は言った。
「心配なんだよ。優奈相手に力尽くで言うことを聞かせるなんて、そんな真似を俺にさせないでくれ」
弱々しい声のようで、しかしそれは言い方を変えれば”手荒な真似はさせるな”と有無を言わさないものだ。
「……大袈裟な」
「大学の頃も、そうだな最近も。お前に男がいたのはおはざんに聞いて知ってたし、幸せにやってるなら手が届かないところにいても仕方がないと思ってた。でもそうじゃなかったなら、許さない」
許さないとは、何を。
「何で、男がいたって過去形なんですか」
「あんな状態のお前を一人にしていたなら、いてもいなくても俺の中では存在しないも同一だからだ」
怒気を含んだ声でキッパリと言い放って、優奈の身体に触れる手に力が込められる。