愛しのフェイクディスタンス


 何故昔からこの男に振り回され続けなければいけない? 何もかもをなかったかのように、まるで、全てこの俺が悪いかのように。
 この男だけには言われたくない。

「……ざけるなよ」

 雅人の思考はその一点に支配される。

「ふざけるなよ、クソジジイが! 誰が祝うか!好きな女が他の男のものになって、どうして喜ばなきゃならねぇんだよ!?」

 誰かに、一方的に、ここまで感情的に怒鳴りつけることなど経験がない。

「余計なことしかしないで、昔から、あんたは……俺の害でしかない!母さんの笑顔を奪って! 身体を壊して痩せ細っていっても見向きもせず……! その上優奈まで、あんたのせいだろ、何もかも全部!!」

 冷静じゃない、感情的な言葉は何においても効果的ではないと理解はしていても。怒りをぶつけずにはいられない。

「……関わらないでくれよ! これ以上俺の大切なものに! あんたができることは俺の前に現れないでいてくれることだけだろ!?」

 息が切れていた。
 どうしてだ? 怒りをぶつけても、どうしてこの心はどこにも行き場を見つけ出せない。
 ここに何をしにきたのかさえ雅人にはわからない。いや、わかりたくないのか。

「まーくん、高遠パパをそれ以上怒鳴らないであげて」

 握りしめていた拳から力が抜け、頼りなく伸びた指を包むように握りしめる優奈の細くしなやかな手。
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