愛しのフェイクディスタンス
追想
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『もう近くだから、この辺で大丈夫』
雅人の方を見ることなく、強張った瞳で数年ぶりに再会した優奈は言った。
逃げるように車を出て、小さく頭を下げ走り去る背中が角を曲がり見えなくなった頃。
緊張の為だろうか。
凝り固まった身体から、ようやく力が抜ける。
(……嘘だろ、まさか)
大きく息を吸い込んで、そして吐き出す。
運転席のシートに深くもたれ掛かかり、低い車体の天井を仰いでみても、事実として甘い残り香が漂う車内。
雅人は、両手で額を押さえ込み前髪を掻き上げた。
(優奈に、会ってしまった)
誤魔化すことなど出来ない、締め付けられるような胸の痛み。
優奈に触れた手を包み込むよう握りしめて、すぐ隣にいてくれた事実に目眩を起こしそうになる。
(……会いたかったのか、俺は、この期に及んで)
愛しさが、募っては、軋む心臓がその熱を奪い取る。
実感しては、冷えていく。
――目の前で崩れていく家庭をどう思う?
――目の前で病んでいく心を、どんな目で眺めている?
雅人は過去の自分に問いかけた。