愛しのフェイクディスタンス
追想

***

『もう近くだから、この辺で大丈夫』

 雅人の方を見ることなく、強張った瞳で数年ぶりに再会した優奈は言った。
 逃げるように車を出て、小さく頭を下げ走り去る背中が角を曲がり見えなくなった頃。
 
 緊張の為だろうか。
 凝り固まった身体から、ようやく力が抜ける。

(……嘘だろ、まさか)
 
 大きく息を吸い込んで、そして吐き出す。
 運転席のシートに深くもたれ掛かかり、低い車体の天井を仰いでみても、事実として甘い残り香が漂う車内。
 雅人は、両手で額を押さえ込み前髪を掻き上げた。

(優奈に、会ってしまった)

 誤魔化すことなど出来ない、締め付けられるような胸の痛み。
 優奈に触れた手を包み込むよう握りしめて、すぐ隣にいてくれた事実に目眩を起こしそうになる。

(……会いたかったのか、俺は、この期に及んで)

 愛しさが、募っては、軋む心臓がその熱を奪い取る。
 実感しては、冷えていく。

 

 ――目の前で崩れていく家庭をどう思う?
 ――目の前で病んでいく心を、どんな目で眺めている?

 雅人は過去の自分に問いかけた。


< 15 / 139 >

この作品をシェア

pagetop