愛しのフェイクディスタンス
なぜ二十五歳の女がこんなに荒んでいるのかというと、このご時世にありきたり、ストレスだろう。
思い当たる理由と言えば仕事。
三年前から働いている個人経営の小さな工務店。
従業員は社長含め十五名程度。社長と、その奥様と毎日毎日同じフロアで一般事務として働いているのだが、これがまぁ、息が詰まる。
しかし、それだけでこんなに荒れたりしない。これだけで胃がからっぽだと実感するほどに食欲をなくしたりはしない。
ブラックすぎる家族経営に問題があるのだ。
まず、会社には事務が二名いる。一応だ。
大切なことだから繰り返したいけれど、本当に一応。
なぜ強調するかというと、優奈と同じく事務の肩書きで働く二十九歳の女性。
実態はほとんど出勤しておらず、更には本当に営業しているのかも妖しいアロマオイルのマッサージ店を経営しているのだと本人は豪語しているが、夜な夜な遊び歩いていることは知っている。
この自由さはどういうことって? この女性、社長の娘だからです。
週に一回来ればいい方なのに、信じられないことに優奈より月給がいいときた。
そうして、そんな誰かさんが気まぐれ出勤なおかげで事務の仕事をほぼ一人でこなす日々。
社長の奥様に、
『今日の服どうなのかしらね』
『胸元が開いてて本当に下品』
『そんなにうちの夫に色目使いたいのかしら』
と、よくわからない妄想で優奈にきつく当たる。
(誰が!お前の旦那に!気があるんだよ!五十越えのおっさんだろ、くそ!)
ガン!とグラスを乱暴にカウンターテーブルに置いてしまった優奈。
ビクッとしたマスターと目が合ってしまった。
思い返して膨らんでいた怒りが、しゅるしゅると萎んでいく。
「ごめんなさい……」
「いえいえ、構いませんよ」
「あの、おかわり同じのください」
無造作に七三分けを作る甘いマスクのダンディなイケメンマスター。
オシャレな店にはオシャレな店員か。
悲しいかな、哀れむような、どこか心配してくれているような、そんな目を向けられた。