愛しのフェイクディスタンス
雅人は優奈の言葉をピシャリと全否定した。
「俺が住みやすいとこ探すから、金のことも気にするんじゃない」
「いや、気にするよ。ほんとお願いこれ以上は頭上げられなくなるから」
優奈も負けじと雅人の提案をピシャリと拒否する。
二人して黙り込んでしまうが、やはり先に口を開いたのは雅人だ。
「……まあ、ゆっくり相談しよう。とりあえず水漏れで今日はあの部屋無理だろう。うちに泊まってくれ。昼から仕事に出るけど……一度夜戻れるようにするから」
どうやら今すぐ話をつけることは諦めたようだ。
「な?」と、念押しされ、優奈はもうひとつ、大切な話をしていたことを思い出す。
いや、思い出してしまった。
タイミングとしては最悪だったのかもしれないが、一度口にしてしまった以上ズルズルと引き伸ばすのは性に合わない。
「……今までは、まーくんの家なんて絶対入れてくれなかったのにね」
「それは」
そのことについても、話をしたいと言ったのは雅人なのだが、明らかに話題にすることを躊躇っているように見える。
ならば自分から切り込むしかないだろう。と、少しずつ話題を変えてゆく。
「私さ、まーくんの隣に並んでも恥ずかしくない女になりたくて、ずっと頑張ってきたんだよね」
「……そうか」
「いつのまにか、自信なくして目的も忘れて……離れることばっかり考えてたけど」
他に気を向けたいのか、コーヒーを口に含む姿。
重苦しい空気になってきてしまった。
「でも結局、ダメだよね」
「……ダメって、何がだ?」
「また片想い、してもいい?」
雅人の問いには答えず逆に質問で返した優奈。彼は驚いたように目を見開き、そしてすぐにそれを隠すよう、俯いてしまう。
まずいな、これは無理な感じだ。直感ですぐに理解できてしまったけれど、何故だろう。
昔よりも怖くなくなってしまったのは、一度この想いを無いものにしてしまおうとした産物なのだろうか?
「昔さ、私の部屋で遊んでくれてた時ね」
唐突な始まりを不思議に思ったのか。雅人が顔を上げ優奈の表情を確認するかのように眺める。
「まーくん私が寝てると思って友達と電話してたんだよ。でも私聞いてたんだから、処女は面倒だとか重いとか話してて」
「ぶっ!」
見つめ合うことは憚られるのか、再びカップを手にしていた雅人がコーヒーを吹き出すというベタな反応を見せた。