愛しのフェイクディスタンス
望まぬ再会
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あんまりにも虚しくて、ちょっと雰囲気良さそうなお店で気を紛らわせたいなと思っただけだったのに。
ぼんやりと覚醒し始めた意識の中で優奈がポツポツとこぼした言い訳。
「ん……」
うっすらと目を開けると優奈の視界にはオレンジ色の光が見えた。
全く、見覚えのない高い天井のクロスはネイビーか、それともブラックか? まるで夜空に輝く星のように、正方形を描き散らばる優しい光の丸いダウンライト。
「優奈、大丈夫か? 気分はどうだ?」
心配そう問いかける声。
それを聞いて『ああ、やってしまった』と、優奈は流れを何となく理解してしてしまう。
ゆっくりと起き上がろうと身体に力を込めると、重力に逆らえないのかと錯覚するほどにフィットする寝心地の良いベッドで、ぐらりとバランスを崩しそうになった。
すると、再び「急に起き上がって平気なのか?」と、やはり心配そうな声。
背中に手を添えられ、結局その手を借り身体を起こすことになってしまった。
「ご、ごめんなさい……迷惑をかけました」
「何をそんな他人行儀に言ってるんだ」
覗き込むように優奈を見つめる。流れ落ちた前髪の艶やかさ、吐息。
相変わらず凜々しい瞳は優奈を射貫く。
逞しい腕は今も優しく優奈を包むし、甘いマスク? 眉目秀麗? 何が当てはまるんだろう。彼を前にして夢中にならない女など存在するのだろうか?
優奈はダメだと警鐘を鳴らしながらも、鼻筋通った美しい顔を眺めてしまう。
「だって他人ですもん」
胸の高鳴りに気がつきたくなくて、顔を逸らすように優奈は横を向いた。
「優奈……、一体どうしたんだ」
助けてもらった恩は忘れたのかと、言いたくもなるだろう優奈の態度に彼は何一つ怒りを見せることなく、声を荒げることもなく。
反抗期の妹に接するよう、宥めるように優奈を気にかけてくれている。
呆れた顔をしているのだろうか? そう思い、チラリと横目に彼を見たつもりだったが、まさかしっかりと視線が重なってしまった。
その瞬間、先程までモヤモヤと霧が掛かったように曖昧だった記憶が確かなものとして蘇って。
時間を巻き戻されてしまいそうな、恐怖が優奈を襲う。