愛しのフェイクディスタンス
――”退屈な大人になりたくない”
優奈の座右の銘にもなっていた言葉を繰り返し聞かせた彼、――その人こそ、今目の前にいる高遠雅人(たかとう まさと)だ。
雅人は優奈の実家の二軒隣りに住んでいた、十歳上のいわばご近所のお兄さんだった。
幼馴染と言えるほどに年齢は近くない為、分類に悩むが……大雑把な括りで言えばそうなのだろう。
優奈が五歳の頃に引っ越してきた雅人は、当時まだ人見知りだった優奈にそれはそれは優しく接してくれた。
もちろん初恋は雅人だ。
初めての失恋は小学校一年生の時。
いつも通り雅人の家に遊びに行った優奈は、彼の部屋で殿に過ごしていた女の人に会ってしまった。
しかし、雅人はそんな状況でも嫌な顔ひとつせず、いつも通りの優しい声で『優奈、どうしたんだ?』と声をかけてくれた。
続いた言葉は『このこ、近所の女の子。妹みたいなものだよ』だったけれど。
別に、この人誰? と聞いたわけではないけれど、どう見たって恋人だとわかってしまった。
そうして、最初の失恋は想いを告げることなく呆気なくやってきたのだ。
その次は四年生の時だった。
もちろん十歳上の雅人は二十歳になっていた。今冷静に思い返せば叶うはずもないのだけれど……。
『まーくんが好きなの』
と、人生初めての告白に雅人は『優奈もそんなこと言う年頃になったんだな』と、心底兄の目をして感心したように優奈に言ったのだ。
『ありがとう、でも優奈にもそうのうち本当に好きな男ができるよ。その人のために大事な言葉はちゃんと取っておくんだ』と。
まさかの優しく諭された二度目の失恋。
三度目は六年生の時で。
四度目は中学三年生。
五度目は高校一年生で。
……六度目は、卒業間近高校三年生の頃だった。