愛しのフェイクディスタンス
口数少ない雅人が視線を動かし、今度はテーブルに置いてある、どう見てもキレイには盛り付けていないガタガタの断面、中身が飛び出てしまったサンドウィッチをジッと眺めている。
お皿にキレイに並べたつもりが、倒れてしまっているものもあって。
見た目だけで判断するならば、これは間違いなく不味いのだろうなと優奈は内心ビクビクと雅人の様子をうかがう。
ネクタイを緩めて、ジャケットを脱ぎ「俺が食べて良いの?」と、どこか恐る恐るといった感じで優奈に訊ねる雅人。
「え? うん。まーくんに作ったって言ったでしょ」
(まさか、こんな不味そうなものを疲れてる俺に食えってか? 的な静けさなのか?)
そんな優奈の不安などよそに。
「そ、そうか。優奈が、俺に作ってくれたのか! お前が作ったものを食べれるのはいつぶりだ? 高校生の頃チョコをくれたけどそれ以来か?」
ぱぁぁ! と、弾けるような笑顔を浮かべていそいそと洗面台へ向かって、どしどしと早歩きで帰ってきた。
手洗いをしてきたんだろうが、手がちゃんと拭けておらず濡れたままだ。
「優奈、お前はもう食べたのか?」
「う。ううん。作るの時間かかちゃったから」
答えると、いまだニコニコと笑顔のままの雅人はこっちへ来いと優奈を手招いた。
「おいで、一緒に食べよう」
「……まーくん、食べれそう? ほらここ二日全然まともに食事してそうになかったし」
「今日は早く帰れたし、何より優奈が作ってくれたなら腹が減って無くても食べる」
きゅん、と優奈の胸が熱くなった。
そういえば、さきほど雅人が口にしたバレンタインのチョコ。
当たって砕けた、最後だったはずの告白。
あの直前に渡したチョコも、その前の年も、もっと前も。
こんなふうに大袈裟に喜んで食べていてくれていたっけ。
だから不器用な優奈も、少しでも美味しいものを作りたいと努力できていたんだっけ。