愛しのフェイクディスタンス




「優奈、荷物はみんなここのロッカーに入れてる」
「は、はい!」
「仕事はこのデスク使ってる、マキや、他の人間も」
「はい!」

 雅人がイスを引いてくれたけれども、座るのはなぁと立ったままで説明にうなずいていると。

「あ、高遠さん。おはようございます」

 背後から声がして、雅人と一緒に優奈も振り返る。
 すると。

 視線の先にいた男性は優奈を見るなり「あ!」と、大きな声を出す。

「何だ、奥村」

 その態度に雅人はあからさまに眉をひそめたのだけれど。
 続いて似たような反応を見せた優奈を見て、今度は驚いたように目を見開いた。

「どうしたんだ、優奈」
「あ、ううん。ごめんなさい、ちょっと知ってた方だったから」

「知ってた?」と、低い声を響かせて、奥村と呼ばれたその男性の方に視線を向ける。

「どうして奥村と」
「あ、いえ!この間、会社戻る途中で彼女にちょっとぶつかって」
「ぶつかった……? いつの話だ、優奈」

 雅人の不機嫌そうな声に奥村と呼ばれる男性は、困ったように笑顔を貼り付けている。

「この間、近くのスーパーに買い物に行った帰りだよ」
「奥村が会社に戻る途中って……優奈、体調が悪かったのにそんなに遅い時間に買い物に出てたのか?」
「あ、夜って言ってもそんなに遅い時間じゃないし」
 
 雅人は小さく息を吐いてから。

「優奈、こいつは奥村。経営企画は琥太郎が仕切ってるけど、その右腕的な感じで振り回されてる男だ」
「え!? 紹介すんごい雑ですよね!?」
「事実だろうが」
「いや酷くないっすか!」

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