愛しのフェイクディスタンス




「その予定だったんだけど、一旦資料をまとめ直してから合流することになったんだよ」
「もしかして昨日連絡入ってた分ですか? 私やっておきました。前に奥村さんが教えて下さった形式のものだったから」

 答えると、奥村は目を見開き、それから「へえ……」と品定めするかのようにジッと優奈を見た。

「高遠さんの言うとおり、君は進んで仕事を見つけるね」
「そうでしょ、そうでしょ! まだ優奈ちゃんうちにきてひと月にもならないのよ!? さっすが前の会社規模は小さかったとはいえ一人きりで事務を回してただけあるのよ!」

 小さく呟いた奥村に、自慢げな声で割り込んだのはマキだ。
 
「いえ、そんなことないです……まだマキさんがいないと何も判断できてません」
「そんなことないわよー」

 否定するマキの言葉。それに対して素直に喜べないのは、謙遜ではない。頑張る動機が不純だからだ。
 会えないのならせめて、雅人が作ってくれた居場所で必要とされる人間でいたい。
 そう思うからこそで。

(……って、もう。こういう考えがダメなんだって)

 雅人に恋をし続ける自分を認めてあげて、それでもどこか、浮上しきれない。退屈な大人のままな気がしているんだ。


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