無理、俺にして
「いや~、濡れた濡れた!!」
「わ……っ」
突然隣から大きな声がして、驚いて声を上げる。
「さみぃ~!!」
さっきまでの制服ではなく、ジャージ姿の円城秋音が笑顔でそう言いながら席についていた。
「なんであんたたちってそんなにバカなん?」
「んー? たのしいからっ?」
「バカだ~」
周りにバカバカと言われながらも、楽しそうに笑う円城秋音。
よく見れば、ベージュ色の髪の毛がまだ少し濡れている。
「ね、ゆめちゃん」
「っ」
唐突に私を見た彼は、頭を少し私の方にかたむけてからニッと笑って続けた。
「髪の毛拭いて?」
「な、え……っ」
――ガラッ
「HR始めるぞー。席に着けー」
素晴らしいタイミングで先生がやってきた。
「おい、今度はなにがあったんだ円城……」
「池で溺れてた犬を助けようとしてこうなりましたー」
一部始終を知っているクラスメイトたちは、円城秋音の返しに声を出して笑う。
それよりも私は、先ほどからドッドッとうるさい心臓の音を少しでも落ち着かせるために、ギュッと胸の辺りをおさえるのに必死だった。