唯くん、大丈夫?




「今日はまた一段とアンニュイだったわねー」




楽屋で白井さんが、優花と少し似てる小さな白い手で俺の髪を整えながら言う。




「アンニュイって何?」




俺はされるがままにしながら、そこに置いてあったファッション誌をペラペラめくる。

あ。歩くんのインタビューが載ってる。

…スカしてんなぁ。





「え?分かんないの?カメラマンの佐田さんに言われてたじゃない!」


「うん。何言ってんだろうと思った」


「…やっぱあんた天才だわ。」





この仕事を始めて、なんだかんだで2年になる。




苦労して晴れて明応大生になったのにろくに授業も出ずに留年した俺を、

見かねた歩くんが「とにかくなんかしろ」と、自分のバンドのスタッフとして物販に立たせた。


そこで歩くんのバンドをスカウトして全国区にのし上げ、

ついでに俺を「割のいいバイトがある」と読者モデルにしたのが、マネージャーの白井さん。



初めは写真嫌いだから無理と断ったけど、
白井さんの『元カノが見てくれるかもよ』という言葉と、その執念深さに折れて今に至る。
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