イノセント・ハンド
イベント開始まで1時間。

ドーム内は既に満席である。


『犯人の目的は何だと?』

唐突にラブが聞いた。

『わかりません。警察に恨みをもつ者なんて大勢いますからね。気の触れたテロかも知れませんし。』

正直な所、犯人やその目的については、なにも分かっていなかったのである。

『犯行予告は警視庁へ、しかも警視総監宛に届いています。』

紗夜が、確認するかの様につぶやく。

『紗夜さん。あなたの思っている通り、つまりこれは、警察への恨みではなくて、警視総監への個人的な恨みと見るべきです。』

話すラブの顔から、微笑みが消える。


『標的は総監?でも、犯人もバカですよね。わざわざ予告して、こんなに警備を集めちゃって。総監狙うなら、俺ならコッソリやるけどな。』

『ジュン!不謹慎よ。』


『恐らくは、爆弾はそっちに気をそらす為の偽装でございますわ。拳銃持った警察官をこ~んなに集めちゃって、これじゃ拳銃を持ち込むのは簡単でございますね。』

世界最高頭脳の持ち主、ヴェロニカが口を挟む。

『そうか!犯人はその為にわざと。それじゃあ・・・』

咲が絶望的な顔を見せる。

勢い立つ宮本。

『犯人は警官の格好ですね!よし!!サキさん。急いでみんなに・・・』

『ジュン。警官動員数は約5千人よ。とても間に合わないわ。』

『ラブ、そろそろオープニングの準備に。』

ヴェロニカが告げる。

『そうね。とにかく、犯人が無差別に人を狙うことはなさそうね。従って、爆弾の警戒は必要ないと思います。風井総監の身辺に集中してください。それから・・・私の警護は、不要よ。25歳独身さん。ありがと。』

立ち上がったラブが、宮本の頬に軽くキスをした。

『・・・!!!』

バラ色の独身男性。


(紗夜さん。あなたなら、きっと止められるわ。シッカリ!)

ラブが、紗夜の肩をポンっと叩いて出て行く。


『ラブ、あなたってやっぱりキス魔でございますわ。』

『アハ。そんな気もしてきましたわ。キスしてさしあげましょうか?ヴェロニカ様。』

『いえ、私には大切な殿方がありますので・・・』


そんなやりとりを見送った三人。

『噂には聞いてたけど、不思議な人ね。男じゃなくても惚れてしまいそう。』

『私、やってみます!!』

突然の紗夜の大声に、宮本も現実の世界に引き戻された。

『やるって、何を?』
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