イノセント・ハンド
洗面所で、紗夜が手を洗っている時、咲が入って来た。


『課長が、珍しく気を遣って、お色直しを手伝えってさ。どれどれ・・・』

紗夜の顔を両手で挟んで覗き込む咲。

『いいです、自分でやりますから。』

その手を外そうとした紗夜の右手を、咲が掴んだ。

その手のひらを見る。

『サヤ・・・この手。』

『放してっ!!』

慌てて紗夜は手袋を探り、右手にはめた。

『あなた・・・もしかして。』

『何でもありません。では、待たせちゃ悪いので、行きます。』

そのまま、紗夜はドアを開け、もう慣れたフロアを急ぎ足で出て行った。

呆然とする咲。

『あっ・・・これ。』

洗面所の端に、紗夜の携帯が置き去られていた。




~刑事課~

『何だこりゃ?』

ずっと映像を調べていた宮本がつぶやいた。

そこへ、真っ青な顔の富士本と、真っ白な顔の咲が帰ってきた。


『あっ、丁度良かった。見つけましたよ。これを見てください。』

二人は言われるままに、画面の前につく。

画面には、母親を跳ねた電車が写っていた。

『これは、事故のあった直後です。』

『ジュン、事故直前の画像が問題でしょ?』

『そう思っていました。でも、もしかしてと思って、その後を調べてみたんです。ほら、ここ!!』

宮本が指差した先は、電車の窓であった。

『キャーッ!!』

咲が悲鳴を上げる。

ホームに止まった電車の窓。

そこに、一人の少女が写っていた。

血走った目。

その顔からは、この上もない恨みの念がほとばしっていた。

宮本が、その部分を拡大する。

『バカなっ!!』

次に声を上げたのは、富士本であった。

『課長!どうしたんですか?大丈夫ですか?』

少し後ずさって、震える富士本。

『そんなことが・・・』

『課長、何か知っているんですね?教えてください。』

宮本が迫る。

『紗夜さんは、東が死んだ時の電話で、『声』を聞いたんです。私に教えてくれました。』

誘拐事件の後で紗夜は、調査を継続しなければらない理由を、宮本に説明したのであった。

『その声は、『あと、ひとり』と言ったそうです。このままでは、まだ犠牲者が出ます!!』
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