イノセント・ハンド
宮本の声に、我に返った富士本。

『サキ!急いで、地下鉄の母親と事故の父親の共通点を調べてくれ。特に・・・17年前を中心にだ。』

『は、はい。』

そこへ、山岸を取り調べていた白沢刑事が来た。

『課長、調べて来ました。』

『言ってくれ。』

『山岸努の罪名は、警官殺し。被害者は・・・』

『姫城 正明・・・だな。』

富士本が呟く。

『はい。』

『姫城っ!?』

宮本と咲が振り向く。

『紗夜さんの・・・父親です。』

宮本と咲が声を失う。

『と言っても、育ての親、それも半年しかありませんが・・・。』

『続けてくれ。』

富士本が急かす。


『山岸は、平瀬 了と、飼沼 静子と三人で、姫城警部を殺害した容疑で、逮捕されました。』

『確か・・・、三人とも容疑を認めたはずだが。』

『はい。記録によると、確かに認めています。しかし今彼は、あれは偽装だと。』

『どういうことだ?』

宮本がたまり兼ねて口を挟む。

『それから、山岸はこう言っています。平瀬も飼沼も被害者だと。三人は全く面識もないと。』

『平瀬と飼沼は?』

『はい。飼沼 静子は、共犯の罪で1年で出所。その後、もともとやっていた薬が止められず、摂取しすぎで、10年前に死んでいます。』



『こんな、まさか・・・』

話を聞きながら、パソコンに向かって調べていた咲がつぶやく。

白沢が説明を続ける。

『平瀬 了は、獄中で1年半程前に死んでいます。死因は病気となっていますが、不審死の噂もあった様です。』

『残ったのは、山岸一人か・・・、彼らの身元は?』

富士本が目で催促する。

『三人とも、近い身内はいません。ですが・・・』

『何だ?』

『記録によると、山岸には、たった一度、面会があります。』

『誰だ?』

『それが・・・。紗夜さんです。』

『何っ!!』

『彼が出所する少し前、彼女は彼に会っています。ただ・・・会話記録は残っていません。』

『つまり、一言も言葉は交わしていないということか?』

『はい。山岸にもさきほど確認しましたが、知らない女性が尋ねてきて、一目顔を見ただけで去ったそうです。それから・・・』

白沢がためらう。
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