たとえ9回生まれ変わっても
お母さんがテーブルに料理を並べて、お父さんは上機嫌でワインの準備をする。
今日は私の好きなオムライスだ。
とろとろの卵の上に、クリームソースがかかっている。
「ほんと、紫央くんはよく働いてくれるわ。もう大助かりよ」
「お客さんも増えたしな。ずっといてもらいたいくらいだよ」
「なんならいっそお婿さんに来てくれてもいいのよ」
「ちょっ……母さん、それは気が早すぎるだろう」
「そうかしら。蒼乃だってもう年頃の女の子よ。彼氏くらいいいじゃない。ねえ?」
「お母さん!」
慌てた拍子に、スプーンに乗せた卵が落ちた。
「やだあ、冗談よお、冗談」
「もう……」
みんな、すぐそっちに話を持っていこうとする。
お母さんの場合はとくに冗談に聞こえないし。
わたしは恋愛系の話題に慣れていないから、軽く受け流すのが苦手だ。
紫央だって、そんなこと言われても困るだろう。
ずっとこの家にいるわけじゃないんだから……。
それでも紫央の反応が気になって、わたしはチラリととなりを見た。
紫央はいつもみたいに楽しそうに笑っていた。
だけど、どうしてだろう……。
わたしは思わずドキリとした。
その横顔が、どこか寂しそうに映ったから。