たとえ9回生まれ変わっても


ご飯を食べ終えて、お母さんが冷蔵庫からケーキを出してきた。
近所にある、人気のケーキ屋のものだ。

定番のショートケーキ。
いちごがつやつやと輝いて、真ん中にメッセージが書かれたチョコのプレートが乗っている。

そんなに大きくないから、4人で食べるのにちょうどいいサイズだ。

「わあー」

紫央がいつにも増して目を輝かせて、前のめりにケーキを見つめている。

よっぽどケーキが好きなんだな、と微笑ましくなる。

お母さんがケーキを4等分に切り分けて、お皿に乗せた。

「おいしいっ!」

紫央が一口食べて目を丸くした。

「ぼく、ケーキ食べるの、初めてなんだ」

「えっ、そうなの?」

ケーキを食べたことがないって人も珍しい。

小さい頃からパンばかり食べていたわたしでも、年に数回はケーキを食べる機会がある。

クリスマスなんかには、学校の行事なんかでも食べたりするし……。

うん、と紫央は嬉しそうにうなずいた。

「最初に食べるケーキが、今日でよかった」

そう言って紫央は、あっという間にケーキを食べ終えた。

紫央の幸せそうな顔を見ると、わたしも嬉しくなる。
なのに同時に、不安にもなる。

最初に食べるケーキ。

だけどわたしにはなぜか、それが、最初で最後、と言ったように聞こえた。


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