たとえ9回生まれ変わっても


「蒼乃」

紫央がわたしを見た。

月明かりの下、青い瞳が、宝石のように輝く。

ーー好き。

わたしは心の中でつぶやいた。

誰に言われたからでもない。
わたしの心が、そう言っていた。

だけど言葉にできないまま、伝えたい気持ちは吐く息とともに闇に消えてしまう。

「手、冷たいね」

「紫央もだよ」

わたしたちは顔を見合わせて、少し笑った。

ほんとうの気持ちは簡単に口にできない。
大事な言葉だけを、明かりの届かない場所にそっと隠すように。

「中、入ろっか」

「うん」

中に入って、カラカラと窓を閉める。

暖房のついた部屋の温度で、冷えた体がじんわりと熱を持つ。

カーテンを閉めると、月は見えなくなる。
姿が見えなくなった途端、近くに見えたものが、あっという間に遠のいてしまう。

目にははっきり映るのにほんとうはずっと遠くにある月みたいに、決して手が届くことはない。


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