たとえ9回生まれ変わっても




「おかえりー蒼乃っ!」

家に帰ると、玄関を開けたとたん、紫央が飛びついてきた。

「わっ!」

わたしはあわてて、もう少しで手に持っていた紙袋を落としそうだった。

「それ何?」

紫央がめざとく紙袋に気づく。

お店のロゴが入った茶色の紙袋。
クリスマス用にラッピングされた赤と緑の包みの中に、マフラーが入っている。

……しまった。
買ったのはいいけれど、渡すタイミングまで考えていなかった。

「えっと、これは……」

わたしは紙袋の紐を握りしめた。

渡すならいまじゃないかな。
はいクリスマスプレゼント、って。

だけどわたしは、紙袋をさっと背中に隠した。

「な、なんでもないよ」

「ふぅん?」

紫央はそれ以上聞いてこなかったので、ほっとする。

……いやいや、ほっとしてる場合じゃないでしょ、わたし。

プレゼントは渡さなければ意味がないんだから。

「そういえば、今日は早くあがったの?」

2階にあがってから、わたしはふと気になって尋ねた。

クリスマスはパーティーをする家が多いので、バケットなどがよく売れる。

お店はいまごろ大忙しなはずだけれど……。

それに、紫央が前に買ったよそ行きの服に着替えているのも気になった。

「うん。お母さんが、せっかくのクリスマスだから、蒼乃と2人でご飯食べていらっしゃいって」

「えっ」

「ついでに近くの洋食屋さんに挨拶してきてって、お小遣いももらっちゃった」

ほら、と紫央が嬉しそうに差し出す。

お母さん、また余計な計らいを……。

ちゃっかり者のお母さんのことだから、娘を使って馴染みの店に顔を利かせようという魂胆も、存分に含まれていそうだけれど。

思いもよらずに舞い込んできた予定に、わたしはどぎまぎしてしまう。





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