たとえ9回生まれ変わっても




夕方になると雪は本格的に降りはじめていた。
明日の朝まで続きそうだ。

「じゃあねー」

井上さんと吉田さんと校門の前で別れて、わたしは駅へ向かった。

学生たちであふれる改札をぬけて、ホームの階段をのぼる。

隙間風が吹いて、わたしは寒さにコートの襟を手繰り寄せた。

電車の中は反対に暖房が効きすぎていて、人混みもあり、少し暑いくらいだった。

紫央とは2回電車に乗ったな、と思い出す。

1回目は、服を買いに。


あのとき紫央はほとんど着るものを持っていなくて、店員さんに半分着せ替え人形のようにされながら、上から下まで見繕ってもらったんだっけ。

2回目は、井上さんたちと遊びに行ったとき。


ボウリングで紫央が突拍子もない行動をして、わたしは紫央を責めた。



だけど、紫央は笑って言ったんだ。

『蒼乃にはいつも元気でいてほしい。蒼乃が元気ないのは、ぼくにとっては全然、そんなことじゃないよ』

あの言葉は、いまもわたしの心を温かく光を照らしている。

電車の窓から見える景色が、あっという間に通り過ぎていく。

ついこの間まで黄色く色づいていた景色は白く染まり、その上を雪が舞っている。


クリスマスはわくわくする、と紫央は言った。


わたしはクリスマスが好きじゃなかった。


楽しみだなんて思えなかった。


お母さんもお父さんも忙しくて、クリスマスの夜はいつもひとりで過ごていた。


シオが一緒だったから寂しさを紛らわすことができたけれど、そのシオも、クリスマスにいなくなってしまった。


でも、今年のクリスマスは、いつもとは違う。


紫央と一緒にツリーの飾りつけをして、シュトーレンを食べた。


やっぱり固いねって笑いながら、でもとびきり甘くておいしかった。


クリスマスが楽しみだって、初めて、そう思えたんだ。


電車の窓から見える景色が、カラフルに移り変わってゆく。


いままで気にしたこともなかった。


クリスマスって、いろんな色がある。


赤、青、緑、金色。


どこもかしこも電飾が光り、楽しげな音楽が流れている。


きっと、この色や光の数だけ、この日を楽しみにしている人が多いってことなんだ。


わたしも、少しずつ変われたら。

ひとりで過ごした思い出を、楽しい思い出に変えられたらいい。

紫央と一緒にご飯を食べて、プレゼントを渡して、今日を楽しい思い出で塗り替えたい。



一緒なら、きっとできると思う。



そばにいられるだけで、いまは充分だ。




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