たとえ9回生まれ変わっても
お風呂に入ってテレビを見ていると、仕事を終えたお母さんとお父さんが戻ってきた。
「ああ、今日も頑張ったわあ」
「今年はとくに忙しかったな」
「でも、店が忙しいのはいいことよね。まだまだ頑張らないとね」
「そうだな!」
励ましの言葉をかけあっているけれど、2人ともヘトヘトなのがわかる。
わたしたちだけ出かけてよかったんだろうか。
「言ってくれたら少しでも手伝ったのに……」
わたしが言うと、お母さんがわたしの頭をぽんぽんと軽く叩いて笑った。
「いいのよ、子どもはそんな気を遣わなくたって。楽しかった?」
「うん」
「それなら、よかった」
お母さんがふ、と微笑む。
その表情がどこか寂しそうに見えたのは、気のせいだろうか。
それから4人で映画を観た。
毎年テレビでやっている、クリスマスの定番のコメディ映画だ。
主人公に痛い目にあわされる悪者を見て、紫央がけらけらと笑う。
わたしも一緒になって笑って、お母さんとお父さんも遅めのご飯を食べながら笑っていた。
幸せだな、と思う。
いままで、当たり前にあった幸せを見ようともしなかった。
寂しさを我慢して、ひとりでいることに慣れたふりをして。
でも、家の中には、いつも笑顔があった。
小さな幸せに気づくことができたのは、紫央のおかげだ。
「さ、明日も学校でしょ。そろそろ寝なさい」
お母さんが言って、わたしは「はーい」と返事をして立ち上がる。
紫央と並んで歯磨きをした。
毎日していることですら、なんだか愛しく思えるのは、クリスマス効果だろうか。
「おやすみ。また明日」
「うん。おやすみ」
そう言って、部屋のドアを閉めた。