たとえ9回生まれ変わっても
「ごちそうさま」
食べ終わると、紫央は礼儀正しく手をあわせて言った。
それを見て、しっかりしてるんだな、と思った。
『いただきます、ごちそうさま、をちゃんと言える人になりなさい。ご飯を食べられることに、作ってくれた人に、ありがとうっていう気持ちを忘れないように』
小さいころから、繰り返し言われてきた言葉だ。
お母さんとお父さんは、ふだんの生活にはとくに厳しくないけれど、食べ物のことについてはよく注意された覚えがある。
食べ物を大事にするのは当たり前のことだけれど、それだけじゃない。
食べられることにも感謝しなさい、そう教えられてきた。
わたしは紫央のことを何も知らないし、無理に聞くつもりもないけれど、そんな風に誰かに教わったのかもしれないな、と思う。
「ごちそうさま」
わたしも同じように手をあわせて言った。
目があうと、紫央は嬉しそうに笑った。