たとえ9回生まれ変わっても
目の前に座る紫央を眺めながら、なんだか不思議な男の子だな、と思った。
突然やってきて、素性もわからなくて、怪しさ全開なのに、警戒心をなくしてしまう。
ふらりと目の前にあらわれて、ついエサをあげたくなってしまう野良猫みたいに、構いたくなる感じ。
お母さんがほっとけなかったと言ったのも、少しうなずける気がする。
それに、こんな風に誰かとゆっくりご飯を食べるのも、久しぶりだった。
お父さんとお母さんは、朝早くから夜遅くまで働いているから、わたしは1人でご飯を食べることが多かった。
一緒に食べても、あっという間に食べ終わってまたお店に戻ってしまうから、家族でのんびり食事することなんて、滅多にない。
1人でいることには慣れていたし、仕方のないことだと思っていた。
だって、お母さんとお父さんは、家族のために一生懸命頑張っているんだから。
せめて邪魔だけはしないように、寂しいなんて言っちゃいけないんだって。
ずっと、そう思っていた。
でも、そんな風に思えたのは、シオがいてくれたからだ。
シオはいつも家の中をちょろちょろと動きまわって、わたしを楽しませてくれた。
わたしの膝の上に飛び乗って、体を丸めて眠る。
わたしはシオの温もりを感じながら、いつの間にか一緒になって眠ってしまう。
シオがいなくなった家は、怖いくらい静かで空洞にいるみたいだった。
だけど、いまは、1人じゃない。
目の前に、一緒にご飯を食べる人がいる。
たったそれだけで、空洞がほんの少し、埋まる気がした。