たとえ9回生まれ変わっても




家に帰る足取りが重い。
憂鬱な理由は、店番のほかにもあった。

昨日、病院の給湯室で、紫央が言った言葉。

『そうだね。ぼくには関係ない』

傷ついたような瞳に、胸が痛む。
その言葉を言わせたのは、わたしなんだ。

同じ場所にいるのに一方的に部外者にされる苦しさを、わたしは嫌というほど知っていたはずなのに。

電車を降りて、家へ向かって自転車を漕ぐ。
秋のゆるやかな風が、髪を浮かす。

昨日は無言で夜ご飯を食べた。

今日も何も言わずに出てきてしまった。

どこに行くときもついてこようとする紫央が、今日の朝は、部屋から出てこなかった。
謝ろう、と思った。

向きあうことから逃げてばかりじゃダメだ。

関係ない、なんてことはない。

紫央はいま、わたしの家にいるんだから。
期間限定でも、一緒に暮らしているんだから。

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