たとえ9回生まれ変わっても
◯
翌朝学校に行くと、さっそく質問攻めにあった。
「森川さん、あの男の子誰?」
「手繋いでたよね! しかも蒼乃って名前呼び!」
「森川さんの彼氏とか?」
予想通り、いや、予想以上だった。
わたしの席にこんなに人が集まっていることなんて、これまでに一度もなかった。
「もしかして、森川さんのうちのパン屋さんのアルバイトの子?」
救いの手を差し伸べてくれたのは井上さんだった。
わたしは驚いて顔をあげた。
「うち、じつは森川さんの家とけっこう近いんだよね。あのパン屋さん、うちのお母さんが大好きで、昔から通ってるんだ。うちの朝ごはん、毎日『もりかわパン』の食パンだし」
「えっ、そうなの?」
「そうそう。わたしもおいしいって聞いて、一緒に買いに行ったことあるよ。クリームパンが絶品だったなあ」
と吉田さんも加わる。
「えっ、2人とも来てくれたこと、あるの?」
「うん、うちはちょっと遠いけど、おいしいから遠くても通いたくなっちゃうよねー」
「そ、そうなんだ……」
大勢に囲まれて戸惑っていたけれど、自分の家のパンをおいしいと褒めてもらうのは、素直に嬉しかった。
「あ……」
ありがとう、と言おうとしたけれど、わたしの声はほかの女子の声にあっという間にかき消された。
「そんなにおいしいなら、今日行く!」
「あたしも!」
「ええっ」
褒められるのは嬉しいけれど、それはちょっと困る。
いやだいぶ困る。
救いを求めて井上さんと吉田さんを見ると、2人して親指を立ててくる。
紫央の登場に2人の後押しもついて、宣伝効果はバツグンだった。
バツグンすぎるよ……。