たとえ9回生まれ変わっても




翌朝学校に行くと、さっそく質問攻めにあった。

「森川さん、あの男の子誰?」

「手繋いでたよね! しかも蒼乃って名前呼び!」

「森川さんの彼氏とか?」

予想通り、いや、予想以上だった。

わたしの席にこんなに人が集まっていることなんて、これまでに一度もなかった。

「もしかして、森川さんのうちのパン屋さんのアルバイトの子?」

救いの手を差し伸べてくれたのは井上さんだった。

わたしは驚いて顔をあげた。

「うち、じつは森川さんの家とけっこう近いんだよね。あのパン屋さん、うちのお母さんが大好きで、昔から通ってるんだ。うちの朝ごはん、毎日『もりかわパン』の食パンだし」

「えっ、そうなの?」

「そうそう。わたしもおいしいって聞いて、一緒に買いに行ったことあるよ。クリームパンが絶品だったなあ」

と吉田さんも加わる。

「えっ、2人とも来てくれたこと、あるの?」

「うん、うちはちょっと遠いけど、おいしいから遠くても通いたくなっちゃうよねー」

「そ、そうなんだ……」

大勢に囲まれて戸惑っていたけれど、自分の家のパンをおいしいと褒めてもらうのは、素直に嬉しかった。

「あ……」

ありがとう、と言おうとしたけれど、わたしの声はほかの女子の声にあっという間にかき消された。

「そんなにおいしいなら、今日行く!」

「あたしも!」

「ええっ」

褒められるのは嬉しいけれど、それはちょっと困る。
いやだいぶ困る。

救いを求めて井上さんと吉田さんを見ると、2人して親指を立ててくる。

紫央の登場に2人の後押しもついて、宣伝効果はバツグンだった。
バツグンすぎるよ……。




< 46 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop