たとえ9回生まれ変わっても
◯
学校から帰るとすぐお母さんに捕まって、店に連行された。
お父さんの腰の治りはいまのところ順調で、すっかり前と同じように店に立っている。
前と変わったことといえば、紫央がいることだ。
そして紫央目当てでくる若いお客さんが増えたこと。
扉が開いて、制服姿の女の子2人組が入ってきた。
「いらっしゃーい」
と紫央の明るい声が聞こえる。
ーーあ。
わたしは厨房から店内を覗いて、ギクリとした。
うちの学校の子だ。
紫央が学校でビラ配りをしたおかげで、決して近いとは言えないうちの学校の生徒が学校帰りにやってくるようになった。
「紫央くーん来たよー」
「今日もかわいすぎ!」
はしゃぐ声が聞こえてくる。
すっかりアイドル的扱いだ。
「ありがとー」
と笑顔で対応する紫央も、慣れたものだ。
わたしは最近、店には出ずに厨房でお母さんに習ってパン作りの手伝いをしている。
難しいことはできないけれど、生地を捏ねたり伸ばしたり、という簡単な作業なら少しずつできるようになってきた。
作業をしながらも、お店にいる女の子たちと紫央のことが気になって、なかなか集中できない。
「蒼乃、手つきが様になってきたじゃない」
「そうかな」
褒められて、わたしは少し照れた。
単純だけれど、褒められると、もっと頑張ろうと思える。
それにわたしには、お父さんや紫央みたいに笑顔で接客をするより、こういう地道な作業のほうが向いていると思う。
不器用ながらも練習を重ねれば、着実に上手にできるようになるから。