たとえ9回生まれ変わっても
「でも、少し固いわね。生地を柔らかくするようにイメージしないとね」
お母さんがわたしを見て、くすりと笑う。
学校の子たちが来て思わず体が強張ってしまったのを見透かされているみたいだ。
「蒼乃はちょっと不器用だけど、真面目で何事も手を抜かないところがいいところよ。パンにも性格が出るの。おばあちゃんの受け売りだけどね」
とお母さんがほほ笑んで言う。
パンにも性格が出る。
これはお母さんの口癖だ。
一口食べるとね、作った人がどんな人なのか、わかっちゃうのよ。
この仕事を長くやってるとね。
ほんとうだろうか。
そう思っていたけれど、もしかしたらそういうこともあるのかもしれない。
少し前ならわからなかったけれど、手伝いをするようになってからは、なんとなくそれを感じるようになった。
丁寧に心を込めて作られたパンは、驚くほど柔らかくて、食べた人を幸せな気持ちにさせてくれる。
その心はおばあちゃんからお母さんに、お母さんからわたしに、しっかりと受け継いでいる。
「お母さん、おばあちゃんが来て嬉しい?」
「そりゃあもう。なかなか会えないけど、そのぶんたくさん話したいことがあるからね」
お母さんは出来上がったパンを鉄板いっぱいに乗せて、オーブンのスイッチを入れた。
ジー、とオーブンの音がする。
わたしはこの時間がけっこう好きだった。
パンが焼けるのを待つ時間。
上手く焼けるか。
どんな味になるのか。
何か楽しいことを待つような、わくわくする気持ち。
あれ、と鉄板に並んだパンを見て疑問に思う。
「これ、いつものと違うね」
「これは商品じゃなくて、今日の夜ご飯のぶんよ」
お母さんは楽しそうに声を弾ませて言った。