ずっと探していた人は
大橋くんは、周りをそんなに驚かしてしまったことに、逆に自分が驚いたようで、戸惑ったようにきょろきょろと目を動かす。

「大橋くん、どうしたの?」

受付を由夢に託し大橋くんに近づくと、大橋くんは少し安心したように「喉かわいちゃって」と笑った。

「なんだ、了解」

私は受付に戻って預かっていたペットボトルを渡す。

すると大橋くんはゴクゴクと一気に飲んだ。

「確かにいきなり出口から吸血鬼が出てきたらびっくりするか」

周りを見渡しながら言った私に、大橋くんは、「そっか、俺、今吸血鬼なんだ」と自分の姿を見てつぶやく。

「そうだよ、まさか出てくるなんて思わなかったから、びっくりしちゃった」

大橋くんは私の言葉に、「そうだよね」と苦笑した。

「結構並んでるね」

大橋くんは少し背伸びして、行列がどこまで続いているのか確かめる。

「うん、大盛況」

想像以上にお客さん来たね、という私の言葉に、大橋くんはコクンとうなずく。

「大丈夫? 疲れてない?」

休憩する暇もなく2時間もおどかし続けるのは、結構体力使うだろうなと思う。

「平気、野球部の練習の方がずっとしんどいから」

「そりゃそうだ」

大橋くんのごもっともな答えに、私は苦笑する。

「じゃあ、次の組が出てきたタイミングで戻るね」

お茶、ありがとう、と私にペットボトルを預ける。

「あ、大橋くん」

私は出口近くにたまたま置いてあった机の上に、ペットボトルを置く。

「ネクタイ、歪んでるよ」

せっかくのスーツなんだから、とスッと歪みを整えて真っ直ぐにしてあげる。

「うん、これで良い感じ」

いってらっしゃい、と言いながら、大橋くんの胸をトンと叩く。

すると、大橋くんは顔を赤らめた。

「ん? なに?」

「なにも……ない」

顔を赤らめておきながら「なにもない」はないよね?

「なにー……」

「加恋?」

聞きなれた甘い声が私を呼ぶと同時に、パッと後ろを向くと、涼くんが立っていた。

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