ずっと探していた人は
「お、俺、戻るから!」

「あ、大橋くん!!」

ちょうど出口のドアが開いたのと同時に、大橋くんは、ぴゅん!という効果音が付きそうなほど、足早に教室へ戻っていった。

「彼と何してたの?」

涼くんが出口のドア越しに、教室の中をじっと睨む。

「ただネクタイの歪みを整えてあげていただけだよ」

素直に答えると、涼くんはー完全に納得した様子ではなかったけれどーそっか、とうなずいた。

「今日、夕方からしか来れないって言っていなかった?」

雑誌の取材が午前中に入っていることに加えて、文化祭は一般の人も出入りするから、騒ぎにならないように夕方の数時間だけ顔を出す、と聞いていた。

「うん、けど高校最後の文化祭だから、楽しみたくて」

早く来ちゃった、と笑う涼くんに、周りにいた女の子からは「キャーッ」と黄色い悲鳴があがった。

「あとで俺のクラスの模擬店、来てくれる?」

「い、行けたら行く」

涼くんのクラスに行くと、嫌がらせをしてきた先輩たちに会うかもしれない。

そう思うと、行く勇気が出なかった。

もう嫌がらせはされていないけれど、今でも嫌がらせされて負った心の傷が完全に癒えたわけじゃない。

私の曖昧な返事に涼くんは首をかしげながら、「じゃあ」と切り出す。

「せっかくだし、文化祭一緒にまわろう? 俺、夕方からしか来れないってクラスのみんなに言っていたから、夕方まで模擬店の当番無しなんだ。最後の文化祭だし、加恋と一緒に思い出、作りたい」

「ご、ごめん!!」

私は涼くんから目線を逸らす。
「私のクラス、思ったよりお客さんが来たから、全然人手が足りなくて。私はなんだかんだ、一日中当番することになりそう……」

私はとっさに嘘をつく。

分かりやすすぎる嘘かと思ったけれど、案外涼くんにはバレなかったようで、涼くんは寂しそうに「そっか……人気だもんね、お化け屋敷」と言う。

「もし少しでも時間出来たら、電話するか俺のクラスに来て? 待ってるよ」

そういいながら涼くんは、私に背を向けた。

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