LOVEHATE~御曹司社長と黒い子作り婚~
弱味
翌朝。


昨日の事は全て夢だったんじゃないかと、思おうとしたけど。



朝、出勤した晴君が、受付にいる私の方を一瞥する事もなく、エレベーターホールの方へと歩いて行った。


やはり、昨日の事は夢ではないみたい。


「あれ?
篠宮君と喧嘩でもしたの?」


神山さんもその不自然な感じに気付いて、私に訊いて来る。



「まあ…ちょっと。
けど、気にしないで下さい」


まだ、私が眞山社長と結婚した事は、
周りに知られていない。


会社での事務的な手続きも、来週くらいにしよう、と、夕べ眞山社長が言っていた。


あの後、行為が終わるとすぐにホテルを出て、眞山社長とは別れた。


交わした会話といえば、その結婚に伴う会社での手続きの話くらい。


そんな眞山社長、今朝は何処か直行で行く場所があるのか、まだ出社していない。


社員が次々に出勤して来て、その流れが落ち着いた頃。


「あれ?今日も滝沢さん」


先に声に出したのは神山さんだけど、私も同じように滝沢さんの姿に気付いていた。



「おはようございます」


こちらに近付いて来た滝沢さんにそう挨拶をしたのは神山さんだけで。


私は警戒したように、この人を見てしまう。



「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」


そう対応する神山さんを見ながら、本当に、何故、今日もこの人が、と思ってしまう。


嫌な予感しかしない。


「今日は、川邊専務に呼び出されて」


「かしこまりました。
一度、担当の者に確認します」


そう言って、神山さんは内線でそれを確認している。



川邊専務…。


その名前で分かるように、ベリナングループ会長である、川邊正のご子息である彼。


ただ、その川邊専務は、会長が結婚前に付き合っていた恋人に産ませた子だとかで、
川邊専務が大人になってから、川邊の籍に彼を入れたとか。


そんな川邊専務が、滝沢さんに何の用事なのだろうか?



「確認が取れました。
後、辻山の方に案内をさせて欲しいとの事で…」


さすがに、神山さんも連日の私の名指しの案内役に、不審がっている。


「はい。
今日も辻山さんにお願いします」


滝沢さんは、昨日の事なんかなかったように、私にそう笑顔を向けて来る。

< 20 / 148 >

この作品をシェア

pagetop