ネコの涙
男の子の家は、小さな工場といっしょになっており、お父さんは、そこの社長さんでした。

しょんぼりとしている私を気にしてか、男の子は、色んな食べ物を、次から次へと持ってきました。

無視していた私も、目の前に、高そうなお刺身の盛り合わせが置かれた時には、びっくりしました。

『おい!、それは今夜の晩飯のおかずだ!!それだけは勘弁してくれ。』

そう言って、お父さんが飛んできました。

その後少しして、私が、柔らかく上品に味付けされたカツオの煮付け(高級ネコ缶)を食べていると、お父さんが来ました。

『目の前に見せといて、取り上げるってのは、いい気分じゃないからな。』

そう言って、お刺身を一切れ、置いていきました。

こうして私は、この二人のことが、好きになって行ったのです。


次の朝、「日曜日」という日でした。

私が窓から空を見ていると、男の子がドタドタと走って来たのです。

『ほら、これ!』

一枚の紙が広げられました。

(読めるわけが・・・)


『「レイ」。君の名前だよ。』

説明によると、親子で読んでいる漫画に、出てくる人物の名前だということでした。

なんでも、素手でものを切ることができる超人だとのこと。男の子は、昨夜ベッドの中で、私の名前を考えてくれたのでした。

自慢の爪を見て、思いついた様です。

「レイ」

(はじめてもらった、自分の名前。)

漫画がどうであれ、私は嬉しくてたまりませんでした。

『僕は、峰崎 健次。よろしくね、レイ。』

生まれて初めて、ご主人様に、名前で呼ばれたのでした。
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