レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加
そう言った太央が、急に真面目な顔をして見つめて少し距離を縮める。
ひんやりとしたこの子の右手が、私の顎をクイッと軽く持ち上げた。
──くやしいなら、志保ちゃんも裏切っちゃえばいーよ
──ほら、俺とかどう?
あの日の公園での出来事が、鮮明に頭に過る。
あの夜の太央の冷たい唇。
抱き締められて、私の頬を潰した意外にも大きな手。
軽率で道徳観に欠けていた行動に、罪悪感を抱きながら。
「学校……外で必要以上に話しかけないで」
「なんで?オープンにするなら別にいーじゃん」
真っ直ぐ私に向けられる視線。クスクスと笑う太央から目を反らす。
「特別扱いはしないし、いつもと同じように」
「それともさー、困るんでしょ?俺に近づかれるの」
「……違うわ。どこで、誰に見張られてるか分からないから」
「あー、奈都ね。志保ちゃんのために弱味見つけてあげよっか?でもー、奈都は今のところバラすつもりは無いだろうけどね」
「なんで、そう言い切れるの?」
「奈都は兄さんが本当に困ることはしないと思うから」
「……そう思う根拠は?」
私は想像するだけでぞっとするのに。
これから、彼女の存在を怯えながら生活しなくちゃならないって。
太央に彼女の何が分かるのだろうか。