協道結婚
何とか乗り継ぎ最後の電車に飛び乗った。
8:15

ハッハッハッハ〜!

ムリです。

(いつもより、5,6本後って、こんなに混んでるんだぁ。みんなギリギリ頑張ってんだわ)

と、どことなく自分の遅刻を正当化へと導く。

正確には「ギリ」ではなく「確定」なのだが…


電車が動き出す前から、気付いていた。

ドアの角から、不自然に愛phonを高めに掲げ、ゆっくり動かしている手。

顔は見えないが、たくさんの足の隙間から、高そうな靴✨👞✨は見えた。

(怪しい。何やってのよアイツ?)

降りる駅は5つ先。
寝不足の私は、そう思いつつも、うとうとしてしまった。

何個目かの駅に着く電車。

また沢山の人の入れ替わりが始まる。

ボヤ〜っとした意識の先で、降りる人の波に抗うアイツ。

「アッ!」 「イテっ!」 「アタっ!」

「コン!コトコト!」

アイツの携帯が持主の手から離れ、幾つかの頭を飛び跳ねて、私の足下まで転がってきた。

アイツは、車外に押し出された様子で、

「す、すみません、ちょ、ちょっと、携帯が…」

悲痛な声が聞こえた。

咄嗟に携帯を拾い、席を立つ。

が、ここで心の葛藤。

(遅刻か親切、究極の選択)

何度も言うが、「遅刻」は葛藤するまでもなく「確定」である。

一瞬振り向くと、すでにお婆さんが座っていた。この間わずか1秒程。

目が合うと、優しそうな微笑みで軽く会釈してきた。

(こヤツ、できる!)

仕方なく、笑顔で会釈を返す私。

帰路は断たれた。
携帯を持っている訳にはいかない。

(んも〜!しゃあない!)

私は乗って来る人の波をスルリと抜けて、社外へ出た。

「はい。これ、アンタのでしょ!」

背後で扉が閉まる。

差し出す間際に、愛phonの画面に目がいく。

(えっ!ヤッパリ!)

愛phonは、動画撮影中になっていた。

「あ、ありがとうございます。」

近づいて、差し出す右手を右手で掴み、懐に引き込む。

思いもかけず引かれ、前のメリになる彼の後ろ首を愛phonを握った手で押さえ込み、右手を背中に締め上げる。

合気道の基本的動作である。

「誰か〜!盗撮犯です!!警備員を!」

条件反射の末、大声で叫んでいた。
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