協道結婚
一瞬、時間が止まるホーム。

しかし、次の瞬間には元に戻っていく。
何事もなかった様に。
何事にも触れない様に。

(そんなもんよねぇ〜)

「あたたたっ!」

ため息をつく足元で、彼の声。

(やっちまったな〜♪)(古っ!)

などとふざけてる場合ではない。

「ち、違うって、私は盗撮魔じゃない!頼むから手を離してください」

素直に「ハイ、私が盗撮魔です!」
なんて言う奴はいない。

とはいえ、この体勢は少々乙女らしくはない。
証拠は手中にあり。

右手を離すと、彼が立ち上がる。

身長170くらい。
細身で、上から下まで高そうなブランド品を着た盗撮魔。

…意外と…イケメン。(照💦)

「き、君、強いね。参ったよ。」

イケメン君の第一印象が、「強いね」💦
(やっちまっ…)

そこへ警備員が二人駆けてきた。

「どうしましたか?」

(叫び声聞いて、飛んできたんでしょ?クマが出たとかじゃあるまいし)

と思いつつ。

「この人、携帯で車内を盗撮してました。盗撮魔です。」

実はこの頃、車内盗撮をネットに流す奴らが増えていた。

「だ、だから違うんだって、とにかく携帯を返してください」

確かに…盗撮しそうには見えない。
しかし、油断は禁物!
犯罪者の隣人は、「いつも挨拶するし、いい人みたいでしたけどね〜」と言うもの。

簡単に証拠品を渡すわけにはいかない。

「とりあえず、ここは邪魔だから、事務所へ来て下さい」

年配の警備員の顔と声のトーンから、
(また、面倒くさいことを…)

という心情があからさまに感じられた。
(やっぱそんなもんか…)

「ほら行くわよ、盗撮魔!」

二度目のため息をつきながら、警備員について行く。

少しイラッとしてしまう私。そこへ。

「勝手に盗撮魔扱いして、君は警察か?!」

彼も彼なりにイラッとしていたのであろう。

(プチン!)

「どこからどう見ても、普通ぅ〜のOLでしょうが!だいたい、髪ぐちゃぐちゃで、メイクもしてなくて、朝ごはんも歯磨きもしてない警官がいますか!って〜の!」

また一瞬、周りの時間が止まる。
気持ち、今度の方が余韻が残っていた。

横目で警備員を見る。
空いた口が塞がっていない。
(ん?あれはことわざ?)

人は時々、無駄に思いを馳せる生き物である。

「ま、まぁいいから、あとは事務所で…ねっ」

何故か私の顔色を伺う警備員。
彼は呆気にとられてか、無言で歩き出した。

(あちゃ〜私今何言った?)焦💦

歩きながら横目で彼を見る。

気のせいか、笑いを堪えてる様に見えた。
イケメンが微笑む横顔は、ヤバい。

歩きながら、証拠品の愛phonを見る。

(もしかして、変な写真とか…)

疑問と好奇心?
(はいはい好奇心ありました)
で、写真フォルダを見る。

すると、(ヤッパリ!)

無防備に開いた美脚を真下から撮った写真があるではないか!

「これでも、盗撮魔じゃないって言える!!」

水戸黄門様の印籠が如く、突きつけてやった。

(…ん?真下から?…あのスカートって)

チラッと、下目でスカートを見る。

(この美脚(審査員:私)って❓)

警備員が覗き込む。
「シャっ!」
マーベルドラマのFlashの如く素早く隠す。

「あ、あ、いや、と、とにかく今は事務所へ、事務所どこかしら〜?警備員さん、まだぁ?」

明らかに、彼より私の方が不審者に思われてる感が半端なかった…。

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