イケメン総長は、姫を一途に護りたい
そんなことを考えていたら――。


「なに畏まってんだよ、咲姫」


突然、頭に振ってきたわたしの名前。

お辞儀したまま、キョトンとして固まる。


「…え……?」


ゆっくりと顔を上げると、今まで無表情だった黒髪の人が、少しだけ頬が緩んで微笑んでいた。


「まぁ、覚えてるわけねーよな。会うの、久々なんだし」


なぜか、わたしのことを知っているふうな口ぶり。


お父さんの後輩ではあるらしいけど、なんでわたしの名前を…?


「咲姫、覚えてないか?千隼(ちはや)だよ。昔、同じマンションに住んでいた、緒方(おがた)千隼」


緒方…千隼……。


頭の中で、昔の記憶をたどる。



お父さんにそう言われてみたら、確かに『緒方千隼』という名前には聞き覚えがあった。


ここへ引っ越す前に住んでいたマンションで、上の階に住んでいた男の子だ。
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