sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜
「友哉くん、一度日本に帰らないか?」


店に着いて着替えていると、社長に声を掛けられた。


「え?」

「実は東京に店を出そうとしていて、だいぶ工事が進んだようなんだよ。一度、見て来てもらえないかと」

「いい・・・ですけど」

「内装なんかは専門のコーディネーターに任せてあるけど、厨房の設備とか配置は、パティシエが見た方がいいだろうから。頼んだよ」

「分かりました」

「10日間くらいなら、こっちも大丈夫だから。ゆっくりしてきて」

「はい」


何だこの急展開は。
偶然か? それとも母親の根回しか?

思わず、ポケットに入っている彼女の写真に手が伸びた。
もしかしたら、会えるかもしれない。

何曜日に彼女が施設を訪ねているのか、次はいつ来るのかが気になった。
タイミングによっては、10日いても会えずじまいだ。

冷やかし覚悟で聞くしかないか・・・。
俺は母親の電話を鳴らした。


「もしもし、俺だけど」

「友哉? どうしたの、昨日話したばかりじゃない」

「月曜に、そっち帰るから」

「え?」

「勘違いするなよ。社長に仕事を頼まれたんだ」

「へぇ、そうなんだ」

「あのさ・・・」

「何?」

「彼女、次はいつ・・・」

「ああ、二葉ちゃん? ええと、毎週火曜なんだけど同じ週にお茶会もあるから、来週は2回来るかな」

「そうか」


電話の向こうから、母親のウキウキした感じが伝わってくる。


「これってサプライズよね? 楽しみだわ〜」

「余計なことするなよ。余計なことも言わなくていい」

「そんなこと言って、嬉しいくせに」

「・・・」

「友哉、母さんHERMESのキーケースが欲しいんだけど」

「分かったよ、探してくれたお礼だろ? 本店に買いに行くよ」

「本当? 後で型番と写真送るわね!」


まったく・・・思わず苦笑いした。
今日は終わりが早いから、仕事の後に買いに行くか。


早ければ、火曜には彼女に会えるかもしれない。
何て声を掛ける?

俺は元々、にぎやかにコミュニケーションを取るタイプではないし、どうしたらいいだろう・・・。
ま、なるようになるか。




「お帰り」


仕事帰りの母親を、家で出迎えた。


「あら、友哉帰ってたの? お昼の飛行機?」

「そうだよ。これ、頼まれてたやつ」

「ありがとう! あら・・・? 箱がふたつ入ってるけど」

「そっちは、俺からのプレゼント」

「えーーー、何かしら。嬉しい!」


こんなに機嫌のいい母親の顔を見たのは久しぶりだ。

実際に彼女に会えるかどうかは別としても、俺の無茶なお願いに応えてくれたわけだから、それには本当に感謝している。


「母さん」

「何?」

「ありがとう・・・酒井さん、見つけてくれて」

「多分・・・友哉の思いが通じたんじゃないの? ものすごく探したというよりは、偶然が重なった感じだし」

「それでも、ありがとう」


そうだ、と母親は俺に1枚のメモを差し出した。


「これは? 何かの住所?」

「二葉ちゃん、厨房持ったんだって。注文が増えてきて、もう家じゃ狭くなったからって言ってたかな。空き倉庫だったところを、間借りしてるみたいよ」

「厨房・・・」

「時間あるなら、見に行ってみたら?」


彼女に会えるのは明日だと思っていたのに・・・。

無意識に車のキーを手にして、家を出た。
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