sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜
朝、7時。
寝ている俺の頭の上で、スマホが震えた。

長いな・・・電話か?
腕を伸ばしてスマホをつかみ、電話に出た。


「そろそろ届いた頃だと思って」


母親の声だった。


「ああ、昨日届いた」

「なんだ、もうちょっと嬉しそうにしてるのかと思った」

「寝起きなんだよ」

「そうか、パリはまだ朝か。ごめんね、起こしちゃった?」

「いや・・・そろそろ起きようと思ってた」


ベッドサイドにあるテーブルから、彼女の写真を取った。


「これ・・・何でいきなり写真なんだよ? それも思いっきりカメラ目線」

「ふふ、いろいろ偶然が重なったのよ。どのタイミングで友哉に連絡しようか考えてるうちに、写真を撮る機会があって」

「え?」


写真を撮る機会・・・?


「あの写真、母さんが撮ったってこと?」

「そうよ。可愛く撮れてるでしょ?」


どういうことだ?


「彼女・・・二葉ちゃんと知り合いになったのよ」


話を聞くと、彼女を見つけたのは少し前だったらしい。
用があって保育園を経営している友人を訪ねた時に、その保育園にいたのだそうだ。

どうやら、彼女の妹さんがその園で保育士をしていて、園の誕生日会に彼女がお菓子を持って来たところに、たまたま居合わせたと。


「ほんとかよ・・・」

「私も驚いた。私服だったから、最初は気付かなくてね。でもお菓子で分かった」

「母さん、味覚が鋭いからな」

「良かったらどうぞ・・・って、私にもひとつくれたのよ。食べてみてハッとした。お友達に名前を確認したら、やっぱり酒井さんだった」


良かった・・・。
お菓子を作り続けてたんだ。

相変わらず、焼く時にはあのフレーズをつぶやいてるんだろうか・・・。


「友哉聞いてる?」

「ああ、聞いてるよ」


それにしたって彼女を下の名前で呼んだり、カメラを向けたりできるなんて、彼女と母親はどういう関係なんだろう。


「それで? まだ続きあるんだろ?」

「そうそう、それでね・・・保育園には、週に一度お菓子を納品してるんだって。どうやら、自宅で作業してるみたいなんだけど」

「ということは、どこの店にも勤務してないってことか」

「そうみたい。で、余力があるようなら、うちの施設にもお願いできないかって、話をしてみたのよ」

「ふーん」


母親は介護施設を経営している。

うちは、親父が店を2店舗、母親が介護施設を経営していて、兄貴は公認会計士、俺がパティシエだ。


「最初はお試しから始めようってことになって、今月から正式に契約したのよ。で、施設のイベントにかこつけて、ちょうど納品に来た二葉ちゃんにカメラを向けたってわけ」

「正式に契約・・・ってことは、定期的に母さんのところに来るんだ」

「そうなるかな。週1回、二葉ちゃんに会えるのよ」

「へぇ、いいな」


思わず口から本音が出た。


「友哉がパリにいる間は母さんが二葉ちゃんを見守るけど、そっちの区切りが付くなら、そろそろ日本に帰って来たら?」

「そう・・だね」

「じゃないと、あんなにいい子なんだから、誰かに取られちゃうわよ」

「取られるって・・・」


それとも、と母親は一瞬黙ってから言った。


「今度こそパリに連れて行くか・・・どっちでも、友哉の悔いの無いように行動しないとね」
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