負けた後に訪れる幸せ
「で、でも、なんで私たち? 私たちなんかより、ずっと前から噂になってる人たちがたくさんいるじゃない」

私は、なんとか話を逸らしたくて、咄嗟に思いついたことを尋ねる。

すると、ステージ下から声が聞こえた。

「青団組織票の勝利!」

その瞬間、「イェーイ!」という歓声と共に拍手が湧き起こる。

「えっ!?」

青団組織票!?

って、どういうこと?

私が首を傾げると、司会者が教えてくれた。

「お前らが揃って練習にいない日が1回だけあったんだよ。確か、真一にケーブルテレビの取材が来てた日かな?」

あ、地元の国体選手の特集をしてたやつ。

本宮くんは、来月の国体にハードルの選手として出場する。

確か、その取材の日、私、風邪をひいて休んでた。

「そしたら、応援団の奴らが、応援練習の時に2人を次期ベストカップルにしたいから、本人には内緒で投票してくれって言い始めて……」

「えっ!?」

驚く私とは対照的に本宮くんは動じることなく、憮然とした表情で立っている。

やっぱりこんなふざけた企画、嫌よね。

ましてや、相手が私だし。

「ということで、2人がダントツ1位でした! 皆さん、2人が手を繋ぎやすいように、もう一度、大きな拍手を!」

その瞬間、再び、大きな拍手が湧き起こる。

困った私が隣をちらりと見ると、本宮くんは、ふぅぅっと諦めたようにため息をついた。

そして、一歩こちらに歩み寄ると、スッと左手を差し出した。

「いつまでもここで見せ物になってることないだろ。もうさっさと手を繋いで、教室に戻ろうぜ」

確かに、手を繋いでしまえば、この恥ずかしい場所から逃げ出せる。

私は右手を差し出し、本宮くんの左手をそっと握った。

すると、司会者から、横槍が入る。

「チッチッチッ、お2人さん、違うでしょ! カップルが手を繋ぐって言ったら、こう、恋人繋ぎでしょ」

そう言って、自分の両手の指を絡めて見せる。

ええ!?

私が驚いたその直後、本宮くんは握ってた手を解いて、ゆっくりと指を絡めてくる。

ただ手を繋ぐのとは違って、指を一本一本絡めるので、そんなにすんなり簡単にはできない。

私はされるがままで待ってるけれど、尋常じゃないくらい手汗がすごい。

世の中の恋人たちは、どうやってるんだろう?

手を繋ぐたびにこんなに手汗をかくなんて、恥ずかしいよ。

でも、そんなこと、この場で言えるはずもなくて……

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