若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
19.
「ねえ、幹人」

「はい。なんですか?」

 火曜日の朝。先週までより三十分早い朝の食卓で母に声をかけられた。
 できるだけ朝シフトで働きたくて、今週から出社時刻を早くしている。

「お弁当持って行くの? なら、何も自分で作らなくても言ってくれたら準備するのに」

 昨夜作った煮物は朝一でタッパーに詰め込んだ。中身は煮物だけだけどサイズ的に弁当に見えなくもない。
 母はきっと、それを見たのだろう。

「いえ、大丈夫です」

 そもそも、弁当じゃないし自分で作るからこそ意味があるものだから。

「遠慮はいらないのよ?」

「いえ、本当に大丈夫なので」

「そう?」

 お手伝いさんは通いだから、朝食は母が準備してくれている。今週から僕の頼みを快諾して準備を早めてくれただけでも十分ありがたい。
 自分が何をやっているか伝えておいた方が良いのかもしれない。ただ、響子さんを手放す気は全くないけど本格的にお付き合いが始まる前に親に話す気にはなれなかった。

「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」

「あ、そうだ。前にも言った気がしますが、来週は海外出張です。月曜日の朝のフライトで土曜日の朝帰国の予定です」

「そうだったわね。ベトナム……だったかしら?」

「ベトナムとタイです」

「そう。何か準備しておくものはある?」

「自分でするので大丈夫ですよ」

「分かったわ。もし買っておくものとかあるなら言ってね」


   ◇   ◇   ◇

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