若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「社長、つかぬことをお聞きしますが……」

「うん。なに?」

 昼休み、わざわざ外に食べに行くのが面倒で秘書に弁当の調達を頼んでおいた。その弁当を会議机に置きながら、秘書は躊躇いがちに切り出した。

「社長に将来を誓い合った彼女ができたと聞いたのですが……」

 ……将来を誓い合った彼女。
 将来を誓い合いたい彼女は響子さんだけど、まだ本格的なお付き合いにも至ってない。
 出所は本部長かHTシステムズか?

「誰から?」

「朝一で狭山本部長から問い合わせが入りまして」

 早いな。でもまあ、そうだろう。
 狭山本部長は僕の腹心の部下とは言えない。狭山本部長だけじゃない。他にいる六人の本部長も僕とは少々心理的な距離がある。
 祖父は跡継ぎだった伯父を亡くしたため、僕に会社を引き継ぐまで本当に長く現役で働いた。とても元気だったし、生涯現役を地で行っていたと思う。なので、会社自体は上手く回っていたし、祖父と僕の間に中継ぎの社長を入れることもなかった。
 ただ、祖父は元気で八十代後半まで会長職にいたくらいだけど、そんな年まで現役でいる部下はいない。僕が社長業を引き継いだ時には、ほとんどが腹の探り合いが必要な部下ばかりだった。
 と言うわけで、まあ、悪気はないのだろうがこんな感じで何かあると細やかにチェックが入る。他にも、若造扱いされるのも日常茶飯事だったりする。

「将来を誓い合った……ねぇ」
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