若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 そのまま、どうぞと牧村さんを中に通す。牧村さんは今日も大きな袋を持っていた。でも、スーパーの白い袋じゃなく紙袋。
 何が入っているんだろう?

「お邪魔します」

 部屋に上がった牧村さんが台所に置いた紙袋をそっと覗く。
 食材と……ミキサー?

 スーツの上着を脱いでいた牧村さんがこちらを見て言った。

「今日はスムージーを作ろうと思って」

「……スムージー?」

 って今日の夕飯?
 私はよっぽど変な顔をしていたらしくて、牧村さんはクスッと笑みをこぼした。

「夕飯は別に作りますよ」

「……あ、そうですか」

「この前、ちょっと果物を買い込みすぎたので消費しておこうと思って」

「ああ、なるほど」

 そういえば、冷蔵庫に果物が色々入ってた。
 そっか、あれをスムージーにするのか。

 気がつくと牧村さんはエプロンを装着し終えていた。

「響子さん、実は少し悩んでるんです」

「……はい?」

「スムージーは作りたいんですが、おやつには遅い時間です」

「ですね」

「でも、デザートに飲むには少し重いかな、と」

「ああ、確かに」

「明日の朝は……お仕事ですよね?」

 そこまで聞いてようやく牧村さんの言いたいことが分かった。

「明日は仕事ですね〜」

 確かに果物たっぷりのスムージーはお腹にどっしり来る。
 今食べるなら明日の朝かなとも思う。
 でもそれなら……

「日曜日は休みです」

「え、本当に?」

「はい」

「じゃあ、日曜日の朝かおやつにしましょう。バナナを凍らせておけばちょうど良いし」

 牧村さんは嬉しそうに笑顔を浮かべた。
< 172 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop